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「なぁ、セコーンド。」
急に名前を呼ばれ、俺は仕事の手を休める。
振り返れば、今や強大なボンゴレファミリーのボスであるジョットが、だらしなくソファにもたれかかって俺のほうを見つめていた。
ちょっとばかり不服そうな顔をしているのは、まぁ、いつものことだが。
とりあえず、そのボスらしからぬ言動を控えたらどうかと思いつつも、言ったところで聞きやしないことは分かっているので、俺は何も言わず手元の仕事を再開した。
「無視とはいい度胸だな、セコーンド。」
「その”セコーンド”という呼び名をやめていただけたら、いくらでもお相手して差し上げますがね。」
今片づけている書類に目を向けたまま、俺はそう返す。
最近、ボスは俺のことを”セコーンド”――つまり二世と、そう呼ぶことがある。
それは俺と二人きりの時だけでしかない。
もし誰かに聞かれようものなら、ファミリーの大問題になること間違いなしである。
なぜなら、ボスはまだ後継者の発表をしていないから、である。
当たり前だ、まだボスがボンゴレのボスとしての地位に立ってから数年しか経っていない。
そんな時期に後継者の話が出てくること自体がおかしいのだ。
「なんだ、不服か? お前が次にこのボンゴレファミリーを支配できるんだぞ?」
「俺には支配欲というのは特にありませんよ。あなたの世話役で十分です。」
「つれないなぁ。俺は、適任者はお前しかいないと思ってるんだけどな。」
「お褒めにあずかり光栄です。でも、まだそんな話をするような時期でもないでしょうに。」
「いやいや、何事も早すぎるくらいがちょうどいいんだぞ?」
「早すぎるにもほどがあるでしょう。あなたにはまだまだボスとして働いて貰わなければ。」
「俺としてはさっさと引退したいところなんだがな。」
「そんな馬鹿な発言、外では絶対に言わないでくださいね。」
「…言わないさ。俺は、お前にしか言わない。」
急に、ボスの声色が変わった。
いつものようなおどけた感じはなく、少し低めの、そして悲しさを含んだ、声。
俺は、手を止めた。
ボスのほうを、振り返る。
目が合った。
明るい、オレンジ色の瞳。
大空の、瞳。
それは、俺が彼に出会ったときと変わらず、昼のように温かく、夜のように冷たく、俺を見つめている。
目が、離せない。
その真剣な瞳が、離して、くれない。
「お前にだけは、嘘は、つかない。」
「……ジョット。」
久しぶりに呼んだ、彼の名前。
それを聞いたボス――ジョットは、ゆっくりとソファから立ち上がり、俺の頭に手を伸ばした。
やさしく頭をなでられ、子供のような笑顔を向けられる。
「久しぶりに聞いたな、その名前は。」
まるで子供にそうするかのように、ジョットは俺の頭をなで続けている。
「お前も、大きくなったよな。いつのまにか、俺を追い越して。」
「ジョットが小さいだけでしょう。」
「ひどいやつだな、お前。最初に会ったときは、あんなに可愛かったのに。」
「もう、子供じゃありませんよ。あの時とは、違う。」
自分の右手を、見つめる。
力を制御できなかった、子供のころ。
今でもその時のことを悪夢に見ることがある。
でも、そんな日の朝はいつもジョットが朝一番に俺のところに来て、こうやって今みたいに頭をなでてくれる。
そして、俺は自分の居場所を強く感じる。
ああ、この人の傍が、俺のいるべき場所なんだと。
「俺は、一生、あなたについていきます。そして、あなたの作ったこのファミリーを、命をかけて、守ります。」
嘘偽りのない、言葉。
自分の本心。
ジョットの瞳をまっすぐに見つめ、俺はそう告げた。
目の前の顔が、ゆるやかに笑みを浮かべる。
「ふふっ。そんなお前だからこそ、俺はお前をこう呼ぶさ。」
" Vongola Secondo ..."
最初の思い出は、幸せ
次の思い出は、悲しみ
その次は、最悪
そして、今は―――
「獄寺。」
突然声を掛けられ振り向けば、視線の先に野球馬鹿こと山本の姿があった。
こんな風に突然声を掛けられることは多々あったので、いつものように悪態でもついてやろうかと思っていたら、しかし山本の様子はいつもと違っていたから、俺はそうするのを止めた。
「なんだよ、妙にそわそわしやがって。気持ちわりぃ。」
こう言ってからこれも悪態には違いないことに気付く。
まぁ、どうでもいいことだが。
「あのさ、今日の帰りなんだけど…」
いつも俺のことはお構いなしに強引に話を進めてくるコイツだが、今日は気持ち悪いくらいにこちらの様子をちらちらと横目でうかがっている。
そこらに居るちょっと可愛い感じの女子に言われれば、まぁ様になる仕草なんだろうが、山本みたいなどこからどう見ても運動部で頑張ってます系な男子にそんなうじうじとした仕草をされても、誰も喜ばないだろうし(山本のファンなら話は別かもしれないが)、少なくとも俺は全力で遠慮したい。
「うぜぇ。はっきり言え、馬鹿。」
その仕草にイライラしながらも、俺がそう答えると、山本はうじうじを止めて今度は笑顔になった。
話を聞いてもらえるのがそんなにうれしいのか、お前は。
「今日の帰り、俺んちに寄らね?」
いざ言ってみれば、何のことはない、よくある話だった。
ご機嫌取りなのかなんなのか、山本はたまに俺に自分の家に寄る様尋ねてくる。
山本に家に行けば、旨いものが食えるので(特にマグロは外せない)、基本的に俺はその提案に乗ることが多かった。
しかし、いつもは帰り道、10代目と別れてから尋ねられるのだが、今日はまだ昼間、学校の中である。
珍しいこともあるもんだ。
「10代目をお送りしてからならかまわねぇよ。」
特に断る理由もないので、いつものように了承する。
予想通り目の前の馬鹿は誰が見ても明らかなくらい嬉しそうな顔をして、俺の返事を喜んだ。
「じゃあ、親父に言っとくから! 楽しみにしてろよ!」
山本は響くような大声でそれを告げると(廊下に居た数人がこちらを見ていた)、大きく手を振り俺の方を振り向きながら廊下を走っていった。
前方不注意だ、馬鹿。
「まったく、あの馬鹿は…」
俺も俺で、あいつのことを気にかけている辺り馬鹿なのかもしれないなと思いつつ、小さくため息をついた。
そして、本来の目的地目指して、俺は廊下を歩いていく。
やがてたどり着いた階段を登り、そのまま屋上へと出た。
周りの柵にもたれかかり、お気に入りの煙草を一本くわえ、ライターで火をつける。
吸った煙をふっと吐き出せば、綺麗な輪っかが出来上がり、雲ひとつ無い青空に一つの円が描かれた。
やがて薄れていくその煙をぼんやりと見つめ、一言呟く。
「今日は、いい天気だな。」
初めてかもしれない、こんな気分は。
最初の思い出は、喜び
次の思い出は、悲しみ
その次は、最悪
そして、今はきっと”幸せ”。
今日は、俺の誕生日だ。